大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和35年(レ)317号 判決 1961年3月24日

控訴人 醍醐幸右衛門

外二名

右三名訴訟代理人弁護士 近藤航一郎

同 小林伴培

同 士屋公献

被控訴人 中村ゆみ子

右訴訟代理人弁護士 黒沢辰三

主文

原判決を取り消す。

被控訴人の請求を棄却する。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

控訴人醍醐が昭和三三年七月六日早朝本件係争地上に本件建物を建ててこれを所有し、爾来右係争地を占有していることは、当事者間に争いがない。

被控訴人は「なゆみ」経営当時から本件係争地を清掃したり、看板や空ビンを置いて右土地を占有していたものであるというので、まず、この点から判断する。本件係争地が被控訴人の経営する店舗前面の道路(私道)の一部であつて、右の道路が一般公衆の通行の用に供されている往来のはげしい通路であることは当事者間に争いなく、当審における検証の結果によれば、右道路は国電蒲田駅西口へ通ずる商店街と女塚大通を結ぶ約四米のコンクリート道路で両側に商店の立ち並んでいる通路であることが認められる。ところで、店舗の経営者が店舗前面の道路を清掃したり、看板や空ビン、空箱などを置いてこれを占用している事例は世上しばしば見受けるところであるが、こうした事実があるからといつて、これによつて当該占用場所に店舗経営者の排他的な占有権が成立するものとみることは到底できない。蓋し、清掃は社会人として当然なすべき務めの一種にすぎないし、看板や空ビンや空箱などの置場としての占用も一般公衆の往来を妨げない限度で道路の一部を一時自己の便益に使用しているだけのことであつて、当該道路に対して道路としての機能を廃絶せしめて、そこに排他的な自己の事実支配を及ぼしているものと解することはできないからである。

また、被控訴人は、両隣りの店舗が増築の結果約五尺道路の前方に出張つて、本件係争地をふくむ被控訴人の店舗前面の道路があたかも被控訴人店舗の前庭のような形になり(この点は当事者間に争いがない)、被控訴人は右前庭状の部分を自己の店舗敷地の一部として占有していたものであるというが、当審における証人伊原清高および同中村真太郎の証言によると、両隣りの店舗が増築されて道路前方に出張るようになつたのは本件建物が本件係争地上に建てられた頃であつたことが認められるので、被控訴人の右の主張はその前提を欠くものというの外はない。

なお、本件建物が建てられたことによつて被控訴人経営の「ニツカバー」への出入や通風採光が著しく妨げられ、被控訴人が社会生活上受忍すべき限度を超えて「ニツカバー」の使用収益を妨げられている場合には、被控訴人は「ニツカバー」の占有妨害を理由として本件建物の除去を求めることができると解するのが相当であるが、当審における検証の結果によれば、かかる事実も認められない。この点は被控訴人の主張しない点ではあるが、弁論の全趣旨からすれば、かかる主張をふくむものと解されないでもない点がないでもないので、念のために一言しておく。

以上のとおり、被控訴人の本訴請求はその前提たる本件係争地に対する被控訴人の占有権を認めることができないので、爾余の点について判断するまでもなく、失当として棄却すべきものであり、これと異つて請求を認容した原判決は不当であるから、民事訴訟法第三八六条、第九六条、第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 石井良三 裁判官 立岡安正 三好清一)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例